FC2ブログ

詩・的・散・文

創作掌編小説・童話

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

サンタクロースの微笑む夜

すっかり葉っぱの落ちた、並木道を男の子が一人で歩いていました。
もう11月の終わりの、紫色の夕暮れでした。
冷たい風が耳元の髪を舞い上げていきました。
足元には、色んな形の落ち葉がかさこそと音を立てました。


背中に背負ったランドセルが重かった。
僕は、我慢してもにじみ出てくる涙をゲンコでこすり、鼻水をすすり上げて、下を向いて歩いた。
家になんて帰りたくなかった。
今日は、オンナノコを泣かしちゃった。
頭にくるからさ。
オンナノコは、僕のことを
「ちびメガネ、がり勉ザル。」
って、みんなの前で指差して笑った。
だから、頭にきてちょっと突き飛ばしたんだ。
そうしたら、オンナノコは泣いちゃった。
僕もちょっと泣きたかった。
僕は、背がすごく小さい。
足も遅い。
でも、算数だけは誰よりも得意なんだ。
算数がみんなより出来るようになれば、ちょっとくらい威張れるようになると思っていたのにさ。
だから、頑張ったんだよ。
でも、きっと家に帰ったらお母さんに怒られる。
お母さんは
「オンナノコをいじめたり、泣かしちゃ絶対ダメッ!」
って言うもん。
僕は、いじめたわけじゃないんだよ、お母さん。
でも、オンナノコを泣かしちゃったら、もうお終いさ。

街には、クリスマスのイルミネーションがちかちか瞬き、お店のウインドウには心を浮き立たせるような飾り付けがされていました。
そのお店の中のひとつの大きなショーウインドウに、サンタクロースが明るい雪空を、トナカイに引かれた橇に乗って飛んでいる飾り付けがありました。ショーウインドウの中で、舞い散る雪の中のサンタクロースは、優しそうな眼をして微笑んでいました。
「きれいだな。」
でも、僕は、オンナノコを泣かしちゃったから、きっとサンタクロースは僕のところには、こない。
サンタクロースが、お母さんだってことは知ってるさ。
だから、もう僕のところにはプレゼントはないんだよな。
ゲームもさ、新しい7段変則のギアの自転車もさ。何にもこないよ。
お母さん、怒るだろうな。
帰りたくないな。
でも寒くなってきたな。家に帰ってあったかいココア、飲みたいなぁ…。

そのショーウインドウの前には、大きな樹が立っていて根元には風に吹き寄せられた落ち葉がこんもりと小さな山を作っていました。
男の子は、ショーウインドウの蜜柑色のライトに照らされた落ち葉の山の横に座り込みました。

お腹減ったな。それに寒いや。
おやつも食べてない。そうだ、給食も悔しくてほとんど食べられなかった。
この葉っぱの山にもぐりこんだら、暖かいかな。
葉っぱをたくさんお腹に抱えて、座ったお尻の周りにもぐるっと葉っぱの山を作ったら、きっとちょっとは暖かいよ。
僕は、落ち葉の山の中にもぞもぞと入りこんだ。
落ち葉はたくさんあったから、僕は顔だけ出してすっぽりともぐりこむことが出来た。
首の周りが、ちくちくするなぁ。
耳の周りもくすぐったい。
空がすっかり暗くなったよ。星が見える。
お母さん、怒ってるかな…。
また、僕、怒られるのかな…。
何だか、また涙が出てきた。
風がふくと顔が冷たいよ。
そうだ。
顔ごとこの葉っぱの中に入れちゃえば、顔も冷たくないし、泣いてる顔を誰にも見られないですむよな。

男の子は、落ち葉の山にすっぽりともぐりこみました。
もう外は、すっかり日も暮れていました。道行く人たちは、コートの衿をかき合わせて急ぎ足に歩いていきます。
明るいショーウインドウの下の落ち葉の山に隠れて泣いている男の子のことなんて誰も知りませんでした。
そして、男の子が埋もれた落ち葉の山は、なぜだか少し小さくなったように見えました。
強い風が時折、落ち葉を舞い上げましたが、落ち葉の山はこそりとも動きませんでした。
ショーウインドウの中のサンタクロースがその落ち葉の山を優しく、見つめていました。
もう、どこの家でも子どもたちは、暖かい夕ご飯を食べていることでしょう。

「みー君!みー君!」
どれくらい時間がたったでしょうか。
お母さんが、男の子を探していました。
お母さんは、泣きそうでした。
「みー君!」
お母さんは、コートも着ないで裸足にサンダルを履いていました。
その時、強い風が、大きなショーウインドウの下の落ち葉の山を、ザザザッと吹き散らしました。
でも、男の子はいませんでした。
黒いランドセルが、色とりどりの落ち葉に囲まれてぽつんと転がっていました。
お母さんは、そのランドセルに駆け寄りました。
「みー君…。」
お母さんは、ランドセルを抱えて座り込みました。
明るく輝くショーウインドウの中で、サンタクロースがまた少し笑いました。

よく見ると、ランドセルの横に小さな枯れ葉に包まれたみの虫がぶら下がっていました。
お母さんは、その小さなみの虫には気づかずに泣き出しました。
「もう、お母さん怒らない。
泣かしたオンナノコにも一緒に謝りに行く。お母さんも謝るから。
みー君のお話もよく聞くから。」
お母さんは、ランドセルを抱えたままふらふらと、家に帰りました。
家に帰ったお母さんは、ランドセルをふわふわのソファの上に置いて、また男の子を探しに出かけました。
外には、冷たい木枯らしが吹いています。


暖かいなぁ。
あれ、ここは僕んちのソファだ。
身体中枯れ葉だらけだ。
僕は、僕はどうしたんだっけ?
そうだ。
葉っぱの山の中にもぐってもまだ寒くて、家に帰りたくても、お母さんに怒られるのが怖くて、涙が止まらなかった。
だから目をつぶってじっとしていた。
そしたら、暗い中からサンタクロースが出てきて、僕をすっぽりあの白い大きな袋の中に入れてくれたんだ。

サンタクロースの袋は落ち葉と…。
お母さんのにおいがしたよ。


もうすぐお母さんが帰ってきます。
ドアノブが慌てたように、がちゃがちゃ鳴っています。
お母さんはまだ泣いているのでしょうか?
ずずず、とはなをすすりあげる音まで聞こえてきました。

~Fin~
スポンサーサイト

Top

HOME

洸

Author:洸
Copyright(C) 2006 洸. Allrights reserved.

◆カテゴリー:小さな童話
ALL

この人とブロともになる

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。