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創作掌編小説・童話

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「ただいま」

その時、僕は横断歩道の先に、ママを見つけたんだ。
だから、自転車のペダルをぐっとこいだ。
自動販売機の陰から、真っ赤な車が見えたのと、僕の身体が重力を失ったのは、ほとんど同じくらい。

がしゃん。

そして、暗転。
・・・・・・。


「あなた、いつまで寝ているの?」
あぁ、眩しい。
「たまのお休みだからって、寝すぎよ、ほら外はいい天気。」
妻の上機嫌な声が聞こえる。
あぁ、ここは、僕のうちだ。働き続けてやっと35年ローンを組んだ、会社から片道1時間半もかかる僕のうち。
「ねぇ、起きないの?」
「起きるよ、おはよう待たせてごめん。マユミ。」
あれ、返事がない。
「・・・あなた、マユミって誰?」
え?
「やっぱり、毎日仕事仕事って、おかしいと思ってたのよ・・・。浮気してたのね。」
何、言ってるんだ?
「・・・許せないわ。」
女の細い指が、首にぎゅっと巻きつき、かぶった布団が顔に。
息ができない・・・。
目の前が、だんだん色をなくす、苦しい・・・。
意識が・・・。
声が・・・。
タスケテ・・・。




さらさらさらさらさらさらさら。
どうどうどうどうどうどう。
天井は青く澄んでガラスのようで。
頭の上を水が流れていく。
目の前の石の影に、ヤゴがいる。
何かが、目の前をよぎる、きれいな色の見たこともない虫。
おいしそう。
口に何かが刺さった、痛いよ、離して、口を引っ張って身体を持ち上げないで。
「オトウサン、ミテ、オオキナサカナ。」
「オウ、スゴイナ。コレハクエルナ。」
はなしてはなして。
「ミテロ、コウヤッテココヲキッテ、シメルンダ。」
がりりっ。
いたいいたいいたい・・いたい・・・いたいいたい・・・いた・・い。
誰か、わたしを水にかえして・・・・。


ぴっぴっぴっぴ・・・。
予断を許さない状態です。
息子さんは、もし命を助かっても、意識が戻らないかもしれません。
車体と自転車のフレームに腹部と胸部を挟まれ、頭も強打しています。
出血も止まらない。今から、輸血をしますので、輸血同意書にサインを。


暖かい血が流れ込む。


海の果ての果てで、君に会おう。



「結婚してください。ずっと一緒にいたいんだ。」
「ありがとう、ずっと一緒にいたいわ。」
君にはじめてあったのは、この桜の下だったね。
えぇ、あなたはサークルの勧誘を強引にしていたわね。
あれから、何年たったの?
ごめん、ごめん。ずいぶん待たせたね。
来年、桜の咲くころに、君にウエディングドレスを着せるから。
風が強いわ。
君の髪に、薄紅色の花びらが散って、綺麗だ。
桜は、満開。
二人の行く手は、光り輝く未来。
ぼく、まっているよ、ママ、パパ。
だから、こんなに花を咲かせたんだ。大好きなママとパパのために。
1年後、重機で引き倒される桜の老木。


「出血はどこだ?」
「血管!どこだ!結サツ!糸!」
「ガーゼ、もっと!」
「血圧低下。」
「まだ、とまらない。」
どこだどこだどこだ。


僕の自転車は、ママとパパが小学校に初めて行く日に買ってくれたんだ。
かっこいいでしょう。
僕知ってるよ、ママとパパが桜が好きなわけ、ふふふ。



「・・・、ユウジ、ユウジ!!」
「マ・・マ。」
「おいっ!ユウジ、パパだっ!分かるか!」
「うん、パパ・・・。」
「意識が戻りましたね、すごい。息子さん、がんばりましたね。よかったよかった。」
「先生、ありがとうございます。」
「ママ、パパ、ただいま。」
僕、夢を見たんだ。長い長い夢。
僕、ママの髪に花びらを散らしたよ。

綺麗だったでしょう?
僕、ママとパパに会うために、何度も死んできたんだ。
やっと会えたね。

ただいま。
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洸

Author:洸
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◆Date:2009年05月
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