FC2ブログ

詩・的・散・文

創作掌編小説・童話

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

「異形」

誰もが、私の姿を振り返る、または、凝視のあと目をそらす。

私は、「異形」だ。
誰もが、私を「異様」だと、「何て姿」だと思うのだろう。

どうぞ、私を嫌って下さい。
私は、神さまから、この姿を現すために、生まれてきました。
「神」を恨むわけにも、私を産んだ女性を恨むわけにもいかずに、ただ生きているのです。
私は「不幸」でしょうか?
きっと、世の中のほとんど誰もが「あなたは不幸」だ、と言ってくれるでしょう。
私の心は、小さい頃からの偏見と虐めで、歪み、怒りを抱いたまま大人になりました。

私は、当たり前と思われる姿をもち、この世に生を受けました。
私は、なぜこんなにも、歪んだ怒りを抱き続けているのか。
何に対して?
私には、わからない。
私を産んだ女性が、この世から、姿を消してしまったことに、もしかしたら、関係あるのかもしれません。

私は、何を、誰に望めばいいのでしょう?
「どうぞ、神さま、私に光り輝くような美貌を与えて下さい。」
叶えられないはずの、望みを抱き続けて、人は生きてはいけないから。

どうぞ、私を嫌って下さい。

最初に、身体に傷をつけたのは、ちょっとした手違いからだった。
木を削るはずの彫刻刃がすべり、私の指先を切り落とした。
ぼたぼたと滴り落ちる、真っ赤な血液に呆然としていました。その血液の中に、切り落とされた私の小指の先の第一関節から上の肉片が埋もれていました。

それは、小学校での授業中だったので、周りは騒然となり、わーわーと立ち騒ぐ同級生と教師がいました。
きっと、私はそのとき、口元に笑みを浮かべたはずです。
何のために?
わからない。

ただ、私は、姿を変える喜びをその時、知ったのでしょう。
それが、人に与える衝撃の大きさに酔うことを。

切り落とされた、私の指先は二度とつくことはなく、それが、虐めの対象になりました。
「気持ち悪い。」
もう慣れてしまったこの言葉。

本当に、歪んでいたのは、指先ではなく、私の心だったのに。
誰もが、私の「姿」を「気持ち悪い」とは言ったけど、私の心の歪みに「気持ち悪い」と言った人はいませんでした。

そう、そして成長するにつれ、人から「注目されること」を望みました。
リストカットが始まったのもその頃でしょう。
「死」への無責任な憧れが強くなる思春期に、私の手首を彩る傷は注目の対象でした。
でも、自分自身は「死」なんて、よくわからなかったのです。
そして、その頃、リストカットで有名だった、ネットアイドルが、亡くなりました。

でも、私の心の歪みは、彼女とは違っていた。
私は、「生」にまだ、執着していたから。

高校に進学し、大人びたクラスメイトのしている、ピアスに心を奪われました。
身体に、傷をつけ、そこに埋め込まれる輝き。
私は、コンパスの針で退屈な授業中に、耳たぶに穴をあけました。
耳たぶを突き抜ける、鈍い針先の、ずぶッと言う音は、リスカットとは違い、より生産的な感覚でした。
「何やってるのー」
無責任な、クラスメイトの小さな叫びが快感でした。
私は、そうして、身体に金属の輝きをまとっていったのです。
それは、ファッションピアスから、ボディピアスと呼ばれるものになっていきました。
口元にラブレットと呼ばれる、ボディピアスをつけた日のことは、きっとずっと忘れないでしょう。
「痛くないの~!」「かっこいい!」「おっかしいんじゃない?」

誰の言葉も、私の心には届かず、口元に埋め込まれた金属の輝きと腫れた口元が自己を満たしていました。

そして、高校を卒業する頃には、耳と顔のピアスホールは20個を超えていました。

でも、まだ、私は「飢え」ていた。
何に?
どうして、私にそれがわかるのでしょう?
ただ、飢えていたのです。
私に、差し出されたものなら、それが汚物であっても、飲み下したでしょう。
そう、私は、それくらい飢えていたのです。

私は、いったい何処へ向かっていきたかったのか。
風は、強い強い向かい風で目もあけていられなかった。

私は、意味もなく男と寝ることを覚え、ますます心を歪ませていきました。
誰もが、私を必要とはしていなかった。
彼らも、私とは違うところで歪み、怒りの中で、ピアスと傷痕に彩られた私という、女の身体を抱いていきました。

私は、私は、私は。
他者を必要としながら、拒み続けてきた。
拒否されるのが、怖かった。
だから、どんなマイナスの感情でもいいから、向けて欲しかった。

だから、どうぞ、私を嫌って下さい。

もう、これ以上、ピアスを増やす場所がないと、思ったとき、私はパニックに陥りました。
(もう、身体に傷をつけられない。)

私は、とっさに、目の前にあった入れたてのコーヒーを頭からかぶりました。
身体を刺す、熱気が私を包み、その痛みの中で、私は「火傷」を、心の歪みにインプットさせました。

それから、数日して、私は自宅のキッチンで、やかんにグラグラと湯を沸かし、じっとその様子を見ていました。まるで、清らかな清水が湧き出す時のような、水の泡をじっと見つけていました。
グラグラと煮え立つ泡は、大きく膨れ、騒ぎ立てる水面で消えていきました。
(泡になりたい。)
ふと、私は、そう思いました。

私の右手は、熱くなったやかんの取っ手を握りしめると、火から下ろしました。
まだ、やかんの中では、湯のたぎる様子が手に伝わってきました。

頭から、顔、耳、肩、胸にかけて、耐えがたい苦痛が私を包み込みました。
そして、私は、気を失ったのです。

気がつくと、真っ白な病室で、右半身にはやはり真っ白な包帯とガーゼが巻かれていました。

そして、命を保ったかわりに、私は、心どうりの「異形」になることができたのです。


道を歩くと、誰もが私の姿を振り返る、または凝視のあと目をそらす。
私が「異形」だからです。

私は、不幸ではありません。
私の、心の歪みを体現できたのですから。
みんなに、嫌われる理由が、やっと自分に納得させられたのですから。

焼け爛れた皮膚の下で、取り出しきれなかったピアスが、鈍い輝きを放っています。
そのピアスには、透明な水のようなブルーのジュエルがついています。
それは、唯一残った、私の美しさなのです。




END*
スポンサーサイト

« 復讐|Top|蜜柑色の夕焼け(仮題)続き »

コメント

自分でおっしゃっていたように、生々しすぎてどうコメントして良いのか迷いますが……思い浮かぶままに。

「誰もが」は「自分が」。
「異形」「異様」と思われること、注目されることを望むのは
「普通」でその中に「埋もれて」いたいことの裏返し。
自分自身が他人のそういう姿を見たら「異形」と思う感覚を持っていることの証。
嫌われたいは好かれたい。
「誰も」に嫌われたい=好かれたいのは自分の中に線引きができないからで、
「自分」と「他人」以外の線引き基準がないという意味で、すべてに開かれているとも言えるし、すべてに閉じているとも言える。

洸ちゃんの書くものが基本的に一人称で、主人公以外のキャラクターが相対的に薄い感じがするのはそういうところから来るのかもしれない、と思いました。

コメントの投稿

管理者にだけ表示を許可する

Top

HOME

洸

Author:洸
Copyright(C) 2006 洸. Allrights reserved.

この人とブロともになる

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。